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脳科学の未来のために ― Brain Science Foundationの使命

財団理事長 宮下 保司
本財団は、1986年、脳科学の推進と振興を目的として、伊藤正男先生、本田宗一郎様、塚原眞佐子様をはじめとする多くの方々のご尽力により設立されました。脳科学は、「ヒトを人たらしめているものは何か」との根源的問いに挑む生命科学最後のフロンティアです。この40年間における発展は目覚ましく、遺伝子・分子・細胞から脳・行動・神経疾患・精神衛生等を貫く、複数の階層を統合する学問として大きく進化してきました。さらに近年では、個人間の相互作用や集団ダイナミクスの基礎研究を通じて、情報学、教育学、人文学、社会科学との連携も進みつつあります。最近の人工知能・AIが、脳の情報処理に着想を得たニューラルネットワークや深層学習を基盤として発展してきたことからも、改めて「脳に学ぶ」ことの重要性が広く認識されるようになっています。脳科学は今や、生命科学を基礎としつつも、社会全体の知的基盤を支える学問領域として期待を集めています。本財団もこうした脳科学の発展と歩調を合わせながら、その活動を発展させてきました。
本財団の主要な事業は、生命科学分野で優れた成果を挙げさらに飛躍が期待される若手研究者を顕彰する塚原仲晃記念賞、挑戦的なアイディアをひっさげた若手研究者への研究助成、ならびに海外派遣助成、海外研究者招聘助成等です。これらはいずれも毎年多数の応募に基づく厳しい審査を通して、優れた応募者に対しての顕彰・助成を行ってきました。とりわけ塚原仲晃記念賞は、我が国の若手研究者にとって重要な登竜門として広く認知され、多くの優れた研究者を励まし、その成長を後押ししてきました。
こうした事業は、我が国の脳科学/神経科学の礎を築かれた故伊藤正男先生が構想された「三本の矢」の理念の中に位置づけられています。伊藤先生は、1974年に研究者コミュニティとしての日本神経科学学会を創設され、1986年には脳科学振興の中核として本財団を設立され、さらに2004年には研究成果を広く社会に還元することを目的としてNPO法人「脳の世紀推進会議」を設立されました。これら三つの組織は、最終的には国民の福祉に寄与することを目指しながらそれぞれが異なる役割を担いつつ相互に連携し、全体として我が国の脳科学/神経科学の発展に貢献することを使命としてきました。
現在の本財団の事業内容は、この「三本の矢」の中でも公益財団法人として独自の財務・運営基盤を有する強みを生かしながら、特に次世代研究者の育成と新しい研究への挑戦を支える役割を担っています。そして研究環境や科学政策が大きく変化する中で、いま本当に必要とされる支援とは何か、どのような環境で研究に取り組んでいる研究者を励まし支えるべきかを、広く研究者コミュニティの声に耳を傾けながら不断に追及しています。もとより、基礎科学の発展には、短期的成果だけでは測ることのできない、長い時間軸に立った支援が不可欠です。本財団は、そうした未来への支援と投資を支える公共的基盤としての役割を果たしてまいります。
本財団は、2010年10月1日に公益財団法人として認定されました。公益財団法人としての社会的責務を果たしつつ、国際的な協力と競争の中で我が国の脳科学をさらに発展させ、その成果を広く社会へ還元していくことが、私たちの使命です。脳科学の未来を切り拓き、次世代の研究者を育てるこの営みを、研究者コミュニティの皆様、そして広く社会の皆様と共に支えていきたいと考えています。
財団理事長
宮下 保司